ピンク頭と黒い疑惑

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ピンク頭と黒い疑惑

 とりあえずエステルを連れて用務員室に行き、ちょっとした事故で制服が汚れてしまったので予備の制服を貸してほしいと願い出ると、人の好い用務員の老人は快く着替えを用意してくれた。  しかも汚れた服を預かってクリーニングしておいてくれるという。  服が汚れた経緯を知っているだけに、善意からの親切に心が少しだけ痛むのだが、エステルはさも当然と言わんばかりの態度でさっさと着替えてくると「これよろしく」と汚れた制服を放り出した。  僕は笑顔でエステルの機嫌を取りつつ、じっくり観察する。  ふとした拍子にすぐ抱き着いてきたり、胸が腕や身体にあたったり……  不用意な行動が多くて無防備すぎると思っていたけど、こうしてよく見てみると全部わざとやっている。  無防備だったのは、むしろ僕たちの方だったようだ。  そんなことにも気付かず、女性と接するのに慣れていない僕は、以前はついドギマギしてしまっていたのが恥ずかしい。  今こうやって冷静に観察すると、「男はとりあえずベタベタ触ってやれば喜ぶだろう」と言わんばかりの態度が鼻につくんだけど。  それにしても、僕は本来こういったむやみに性的なアプローチをかけられるのはものすごく苦手で、生理的に受け付けないくらいなんだけど……  なぜこんなにわざとらしくベタベタまとわりつかれるのを、無邪気で可愛いと思い込むことができたんだろう。  何だか不自然すぎる。
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