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それだけじゃない。
彼女に触れられた時に、一瞬頭の中にもやがかかるような感覚があって、のぼせたように思考がぼやけるのが妙に引っかかる。
幸いなことに、今はそれらは一瞬のことで、すぐに生理的な嫌悪感の方が先に立つんだけど……
甘ったるい舌っ足らずの話し方も、故意にやっているのだと意識すると、とたんに気持ち悪く思えてきた。
愛らしさを際立たせていた大きな瞳も、よく見ると開き気味の瞳孔には人を弄んで操る愉悦が満ちていて、可愛いというよりは恐ろしい。
だいたい、こんなに瞳孔が開いてるんだ? 何かの病気?
それとも、瘋癲茄子の目薬でも使っているんだろうか?
あれは昔は瞳を大きく見せるためによく使われていたらしいけど、中毒症状で錯乱したり、亡くなる人が相次いだことで禁止されたはずなんだけど。
僕はどれだけ見る目がなかったのだろう。まるで夢でも見ていたようだ。
もうエステルに僕を見てほしいとか、自分だけのものにしたいという気持ちは欠片もない。
ほんのちょっとの時間でここまで自分の心が変わってしまったのが本当に不思議だけど、悪い夢から醒めたかのように、今ではエステルを好ましく思っていた時の気持ちが思い出せなくなっている。
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