ピンク頭と黒い疑惑

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 少なくともさっきのアレはエステルによるアハシュロス公女に対するイジメだ。  あんな訳の分からない絡まれ方をして毎日のように「処刑されろ」なんて迫られたらさしもの公女だって嫌になってやり返そうとするかもしれない。  エステルはそれを狙って彼女を陥れるつもりなんだろう。  エステルの目的がよくわからないが、とにかくアハシュロス公女を処刑させて何かを起こすつもりのようだ。  無実の人に罪を着せ、処刑させようなんて企みは放ってはおけない。  ましてアハシュロス公女は隣国ダルマチアの王妃の縁戚だ。万が一の事があれば、国際問題に発展しかねない。  六年前に僕自身が経験したダルマチアとの国境争いを思い出す。  王都にいた人々にとってはよくあるちょっとした小競り合い程度のものだっただろうが、それでも僕の師匠や兄弟子はあの戦いで戦死した。二人の無残な死に様は、何年経っても忘れられない。僕一人が生き延びてしまった罪悪感も。  できればあんな思いはもうしたくないものだ。  当分の間はエステルの機嫌を取りつつ監視して、機会をうかがうことに専念しよう。  とはいえ、いきなりエステルの本性が……などと訴えてもクセルクセス殿下をはじめエステルに夢中になっている男どもの誰一人として素直に信じないだろう。  僕自身がこうして目の当たりにするまでは彼女に対する嫌がらせ自体は疑っていなかったもの。
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