ピンク頭と捜査開始

2/4
前へ
/37ページ
次へ
 エステルの天真爛漫な言動は小動物のような愛らしさで、心惹かれる男子生徒が後を絶たぬ一方で、貴族としての常識をわきまえない言動に反感を覚える者も多い。  そのせいか、彼女はしょっちゅう持ち物を隠されたり足を引っかけられたりといった様々ないじめを受けたと訴えてくる。 「今度は誰に何をやられたんです?」 「そんなもの、アミィに決まっているだろうが。教科書を破かれたそうだ」  アミィというのはクセルクセス殿下の婚約者、アマストーレ・アハシュロス公爵令嬢のこと。  隣国ダルマチア王妃の従姉を母に持ち、山の頂に輝く雪のような銀髪とアメジストのように澄んだ涼やかな瞳の怜悧(れいり)な美貌の持ち主だ。  それだけではない。七か国語を自在に操る一方で、小剣の扱いなら騎士科の生徒とも互角に渡り合えるほど。  文武両道に優れる彼女は令嬢の(かがみ)と年配者たちの評判は良い。  その一方で、性格は苛烈(かれつ)で底意地が悪く、陰湿だともっぱらの噂で、殿下には露骨に避けられている。  いつも顔に貼り付けている冷たい作り笑顔のせいで印象が悪いのだと思うけれども……  必要以上に無口で本心がどこにあるのかさっぱりわからない人なので、何を考えているのかは、正直に言えば僕にも全くわからない。  クセルクス殿下が貴族社会に不慣れなエステルを気遣って何かと親切にしてやっているのに醜い嫉妬をして教科書や文具を壊すなどの嫌がらせをしているのだ……  というのは殿下のもっぱらの言い分。  成績優秀なうえ、政務や王妃教育で多忙なアハシュロス公女が、殿下やエステルのいる一般教養クラスの教室までわざわざ足を運んでまで、そんなせせこましい嫌がらせをするだろうか?  僕だったらそんな下らない事に時間と手間を費やすくらいなら、さっさと仕事を終わらせるか好きな事をするかしたいものだけど。エステルを快く思っていないのは、何もアハシュロス公女だけではないだろう。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加