ピンク頭と不都合な真実

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「実はエステル・クリシュナン嬢のことでちょっと……。彼女が教科書やノートを破かれたり、ダンス授業用のドレスを破られるなどの嫌がらせを受けていることはご存じですか?」 エステルの言う『イジメ』のことを口にすると、オピニオーネ嬢は表情を曇らせた。 「エステルさんから伺いました。本当に赦せませんわ」  憤然と答える彼女の言葉に、嘘は感じられない。 「自分より身分が低いからといって何をしても良いわけではございません。むしろ身分の低い者、力なき者を守ってこその貴族ですわ。ポテスタース卿もそう思われませんこと?」  生真面目で人の好いオピニオーネ嬢はエステルの言葉をそのまま真に受けてしまっているようだ。そしてそれが新聞部を通じて学園全体で「真実」として受け入れられてしまっている。  事実とは全く違うにもかかわらず、第三者がそれを疑うことがないのは、それが悪意のない……いや、むしろ紛れもない善意からの言葉だから。   『世論』とは客観的な『事実』ではなく、それを口にする者にとって望ましい『世界のあるべき姿』なのだ。  『世論』とは客観的な『事実』ではなく、それを口にする者にとって望ましい『世界のあるべき姿』なのだ。
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