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学校から連隊本部へは政経科や一般教養科のある本校舎の裏の雑木林を抜け、裏門から行った方がずっと早い。僕が足早に校舎裏に向かった時のことだ。
「いい加減にしなさいよ。アンタがちゃんとやらないせいであたしは大迷惑なんだからね!!」
雑木林から女性の言い争うような声がするのに気が付いた。誰かがたかぶった感情のまま、相手を激しく責め立てているようだ。
(もしかするとまたエステルがいじめられているのかもしれない)
僕は慌てて雑木林に足を踏み入れた。そこにいたのは向き合って何か言い争っている二人の令嬢。
一人は柔らかなストロベリーブロンドとハニーブラウンの大きな瞳の小柄な令嬢。先ほど殿下が話題にしていたクリシュナン男爵令嬢エステルだ。
なんだか興奮している様子で、もともとふっくらしている薔薇色の頬がいつもよりふくらんで赤みを増しているように感じる。
もう一人はストレートのプラチナブロンドに淡い紫の瞳の長身の令嬢、アハシュロス公爵令嬢アマストーレ。
王太子クセルクス殿下の婚約者だ。こちらもついさっき、殿下からエステルへのいじめを行っているのではないかと名前が出たばかり。
いつものように何を考えているのかわからない作り物めいた笑顔だが、目は笑っていない。
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