白い対象を、黒くなる素材で、白い紙に、白く描くという矛盾

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ギリシャ神話、ローマ神話、劇作家、哲学者など、神や偉人を象った彫刻を石膏取りした「石膏像」を木炭や鉛筆で描きます。次のようなねらいがあります。 1 人体のプロポーションを理解できる。  顔のパーツの比率、胸、腕、首の解剖学的な比例関係などを、描くことで知ることができます。ただ見ているのではなく、理解して見ることによって、認知の歪みを直していくことができ、人体を自然に表現する力が養われます。 2 陰影を描いて量感を表現するテクニックを身につけられる。  二次元の紙の上に3次元の立体を表現するためには、陰影が欠かせません。光が当たらない部分が「陰」で、物体が物体に落とすのが「影」です。反射光によって、陰の中にも明るい部分ができます。形の角の部分を稜線と呼び、特に濃く書くと立体感を強くできます。 3 凹凸をゾーニングして捉える観察力を身につけられる。  「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、このヘルメスの場合、頭部のコブに明確な「面」があります。手のひらで触ってみると、製作途中で大まかに面取りしていることが理解できるのです。デッサンでは、大まかな面を表現するという、物の見方が重要です。 石膏デッサンで基礎を徹底的に学ぼうとする美術の専門教育の在り方は、生真面目な日本人らしい文化です。 ヨーロッパで日本人画家がスケッチをすると「神業」と称賛されることも多いとか。 明治から大正にかけて、たくさんの画家がそんなエピソードを残しています。 私もヨーロッパの街角でスケッチをたくさんしました。 覗きに来た人たちが驚くこともありました。 私は実物を見て描きますが、現地の人がスケッチをしていると、写真を見て描いていることが多かったです。 白い石膏像を、白い画用紙に、鉛筆で白く描けるものでしょうか。 理屈は単純です。 固有色は、光が当たるハイライトやトップライトの部分の色で表現します。 だから、陰だけを濃くして、光が当たる上面に触らなければいいのです。 でも、実際に描いてみると簡単ではありません。 まったく描かない部分を残して立体感を表現するには、相当な技量が必要なのです。 究極の石膏デッサンには、2つのパターンがあります。 1つは色彩を完璧に再現したデッサン。 2つ目は、立体感を完璧に再現したデッサンです。 残念ながら2つは同時に実現しないようです。 今回は1つ目の色彩に重点を置いた書き方を目指しました。 白く見せるためには、実際には白くない部分を白くして描きます。 少々の破綻が、実際以上の白さを感じさせるのです。 もう一つ、重要なテクニックは、ハイキーにすることです。 対象の色調に合わせて、大まかにハイキー、インターメディエイトキー、ローキーの3種類のいずれかで描きます。 質感が加わると、マイナーキーとメジャーキーを組み合わせていきます。 立体感を出すために、限界の黒から紙の白まで、最大限に濃淡の階調を使いますが、明るい色調、あるいは暗い色調を増やすと、固有色を強調出来ます。 白い物は、薄い色で描くのは想像できると思います。 しかし、肝心なのは、限界の黒も使うところです。 白と黒のコントラストを強く「見せる」と白さを感じます。 あくまで、見せる、感じさせるだけです。 視覚のトリックと言っていいでしょう。 このデッサンは、写真なので、薄氷を踏むように硬度4H以上の硬い鉛筆と擦る技術で表現した部分が自動補正で濃くなってしまっているのが残念です。 実物は白さを感じるように描いています。
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