肩もみ

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 18(ろく)時前に近所の子と集団で学童から家に帰る。「またな〜。バイバーイ」と玄関先の道で近所の子とバイバイして、背中のランリュックをかた方にかけ直して、ランリュックのフタを開ける所のしぼり部分にくくりつけてるずず黒くなった元白色のひもを中からひっぱっり出すと『チリンチリン♪』と鈴が鳴る。鈴と一緒についてる家のカギでドアを開ける。 「ただいまー」と言っても、返ってくる返事はなく。カギをして、靴をぬいで、上がり口にランリュックを直置きドカッ。そのまますぐそこの洗面所へ行く。手を洗ってガラガラうがいをする。くつ下をぬいで、ポーンと投げて、洗濯機にイーーーン!ナイッシューーー!!ガッツポーズをしながら洗面所を出て、直置きドカッのランリュックをずりずり引きずりながら奥の部屋へ行く。 ーーーーー  ドアを開けて、すぐ横の壁のスイッチを押して部屋の電気をつける。一瞬眩しくって、目をつぶる。次にはしっかり目を開けて、そのままテーブルまで歩く。もちろんランリュックはずりずりひきずりながら。  テーブルのねきにランリュックを置いて、テーブルの上を見るといつも通り母ちゃんからの手紙とおやつのパンが一つ置いてあった。 ー寛太おかえり!  学童でちゃんと宿題した?  母ちゃん19(しち)時までには家に帰るし😊  テーブルの上のコロッケパン食べて待っててな。  のどつまらんように飲みもん飲まなあかんでー。  帰ったら宿題の九九聞くしな!  心配やったらちゃんと練習しときや〜😁  いっつも待たせてごめんな!  今日の夜ご飯カレーライスやしな。                母ちゃんより😊 「学童で宿題?…ちゃんとしたわー。またコロッケパンか…おいしいって言ったら、2〜3日続くしなぁ…まぁ、ええねんけど…。げっ!母ちゃん、まじか!九九聞くって…げーっ…練習しとこ…でも、先パン食べよ…飲みもん…冷蔵庫に牛乳あったっけ?…」 ぶつぶつ言いながら台所へ行って冷蔵庫を開けてドア裏のポケットを見る。 「牛乳ないやん。果物入ってない野菜ジュースしかないやん…まずいやつやん。まじかぁ…まぁ、お茶でいっか…」 ぱたん…と冷蔵庫を閉めて、食器棚からマグカップを取って、コンロの上のやかんからお茶を満タンに入れる。満タンにしたんは、また入れに行くのがめんどいから…。お茶をこぼさんようにそぅろそぅろとゆっくりテーブルに戻ってイスに座る。「頂きます」と声にしてから袋からコロッケパンを取り出して食べ始める。 ーーーーー 「さぁ、寛太。手紙に書いといた通り、九九っ、九九っ、九九っ…今から聞くで」 夜ご飯を食べ終わって、後片付けをマッハでした母ちゃんが、テーブルのイスに座って、僕に九九を要求する。僕はテーブルに近寄る。 「母ちゃん、くくっ、くくっ、くくっ…って、いつからハトになったん?」 「今から母ちゃんはハトになったんや。母ちゃんがハトになったんやから、寛太も今からハトにおなりなさい…そして、母ちゃんの前にお立ちなさい。そして、九の段を言うのじゃ」 むちゃぐちゃな言葉使いで、難関な九の段を要求するアホ丸出しの母ちゃん。我が親ながら心配になる。 「なぁ、母ちゃん」 「なんや?」 「見本見せてーな」 「見本?なんの?」 「九の段。僕に言えって言うんやから、もちろん母ちゃん言えるんやろ?」 じっとーっと母ちゃんを見ながら言う。 「母ちゃん、九の段言えるかって?も、もちろん言えるけど…そうやなぁ…九の段やめて、そうやなぁ…五の段にしとこかな?五の段…どうや?」 僕はポーカーフェイスで、心の中はガッツポーズ!(まぬがれた!九の段!) 「分かった!五の段、言うで?いいか?」 「いいヨー。じゃ、どうぞ!」 「5×1=5(ごいちがご)5×2=10(ごにじゅう)5×3=15(ごさんじゅうご)5×7=35(ごしちさんじゅうご)5×8=40 (ごはしじゅう)5×9=45(ごっくしじゅうご)」 「イエ〜イ!バッチリやん!」 と僕にハイタッチをしてくる母ちゃんに、僕は渋々応じる。そしていつもの如く僕にお願いをする母ちゃん。 「寛太…いつもお願いして悪いんやけど、今日も肩もみしてくれへん?」 「いいでー…母ちゃんばばぁーやし」    素直になれない僕は、いつもちょっとだけ悪態をつく。 「誰がばばぁーやねんっ!まだ若いっちゅーねんっ!華の30代やっちゅーねんっ!どや?」 「どや?って…はいはい…わかったし。100回でいいか?」 と聞いて返事を待たず、イスの背もたれから背中を離して座っている母ちゃんの肩を数えながらもむ。 「1・2・3・4・5・6・7・8・9・10…28・29・30 ・31…」 「あー…むっちゃ気持ちいいわぁ…」 「38・39・40・41・42・43・44・45…91・92・93・94・95・96・97・98・99・100!母ちゃん、100回終わったで!」 と言ってから、母ちゃんの両肩をぽんっとたたいて、終わりの合図をすると、後ろを振り向く母ちゃん。 「寛太、ありがとう!悪いんやけど、コリきつくって、あと10回追加でお願いしてもいい?」 「えーーっ…嫌や」 「じゃ、あと9回」 「えーーっ」 「あと8回」 「えーーっ」   「あと7回」 「えーーっ」 「あと6回」 「えーーっ」 「あと5回」 「えーーっ」 「あと4回」 「えーーっ」 「あと3回」 「えーーっ」 「あと2回」 「えーーっ」 「…あと1回」 「しゃーないなぁ…あと1回したるわ」 「………」 「嫌やったらいいねんで?」 「ア、アト1カイモシテモラエル…ウ、ウレシイナァ」  そして、僕は出来るだけ大きく息を吸って母ちゃんの肩をもむ。 「あーーーーーーーーーーーーーーとーーーーーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーーーーーーっ…(スゥ)かーーーーーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーーーーーーっっっ!」
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