六月病

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 命が消える瞬間だけど、その消え方次第では周りから反感を買う。人身事故は典型的な例だ。通勤ラッシュ中じゃなくとも、人身事故によって電車がしばらく運休になる。それが急いでいる人や通勤・通学途中の人、帰路につこうとしている人の反感を買う。  僕は人身事故という言葉がSNSのトレンドに入っているたびに、その命への批判を見かける。  本人だって、死にたくて死んだわけじゃないのに。耐えられなかったのだ、きっと。疲れてしまったのだ。だから身を投げ出したんだ、ホームに。  望んで命を消したわけじゃない。望んでその消え方を選んだわけじゃない。 「事故起きたのって彗の最寄りだよね? 大丈夫だったん?」 「……目の前で、人が飛び降りたよ」 「えっ」  朝方の記憶を思い出して、また腹から何かを吐き出しそうになる。僕はその勢いを飲み込んで、ふーっと息を吐いた。 「わりぃ、なんか」 「いや、別に」 「てか普通に遅刻だし。あいつ遅延とか人身事故とかに理解ない奴だからさぁ、俺けっこう単位取れるか厳しいんだよね」 「そうなんだ」 「だって今月めっちゃ遅延しまくってたじゃん? そのせいで俺けっこう大幅に遅刻したからさ、欠席扱いになってたりもするわけよ。で、数えてみたんだけど。これ含めて、あと一回で俺落単っぽい」 「どんまい」  「冷たいー!」と凜が言いながら僕の肩を揺さぶった。僕は最後の一口を食べると、「ご馳走様でした」と言ってそそくさと歩き出した。
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