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母の死
「待って!まだ行かないで!」
少年だった頃の僕は叫んでいた。意図的ではなく、心から出た言葉だった。
僕は泣きそうだった。いや、半分泣いていた。ベッドで横になり、日に日に痩せ細っていく母親の姿を見て、悲しみを感じない、ということは不可能だった。
母は難病を患っていた。寿命を延ばす以外に、母を長生きさせる方法は無かった。つまり、病気は治らないのであった。
最初に、そのことを虚ろなまなざしで母から告白されたときは、ショックなんて物ではすまなかった。幼い僕は、その話を聞いても、母の病気が治る可能性をずっと信じていた。
しかし、その時は来てしまった。
最後に母は言葉を残さなかった。僕の手を握っていた。しかし、その手はしばらくすると、ふにゃりと僕の指の間をすり抜けてしまった。
僕は途方に暮れ、その場から動けなかった。嗚咽を漏らしながら、急に重くなった自分の体を、必死で支えることしかできなかった。
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