一回目①

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一回目①

 その後、父は再婚した。  義母は、温厚な雰囲気で温かい笑顔が魅力的な父とは逆に、ポーカーフェイスを貫く愛想の悪い人間だった。  そして、父と義母の間に、子供が生まれた。父は、よく出張で出かけてしまい、義母とその子供、そして僕の三人で暮らすことが多くなった。  だが、義母は僕に愛情を持たなかった。僕が話しかけても、そのポーカーフェイスをこちらに向け、冷ややかな声で返事をするだけだった。血のつながっていない子供だからか。それとも、僕ができの悪い子供だったからか。  僕は義母から嫌がらせを受けた。僕が作った料理は「まずい」と言って捨てられ、スマホやゲームは一切禁止だった。  友達と遊びに行くこともほぼできなかったが、一回だけ友達の家に遊びに行けた際に、その家の母親は厳しくて、恐い、ということをもう一人の遊びに来ていた友達から聞いた。しかし、暴力を振るわれないのなら、全く恐くないではないか、と思ったことを今でも覚えている。  とにかく、僕には居場所がなかった。  僕は我慢できなかった。    ある日、僕は義弟の面倒を見るように、母親から言われ、留守番をしていた。 僕はスーパーマーケットに向かう義母の背中を最後まで見送らずに、リビングに戻った。暇だったが、暇を潰せる物など何も与えられていない。  義弟の面倒でも見ようかと、ふと机を見るとそこには義母の携帯電話が転がっていた。そのとき、僕はため息をついた。  放置すると「なんで私に届けないのよ」と言われ、仮にその携帯電話を義母に届けに行っても、「弟の面倒を見なさい、て言ったでしょ」と言われる。そんな未来、その時にならなくても分かる。  しかし、その時僕は、携帯電話を義母に渡しに行くことにした。急いで玄関を出ると、すぐに義母の姿を見つけることができた。スーパーマーケットまでの道には寄り道する場所も、裏道なども無かったからだ。  僕は「お母さん、携帯電話を忘れているよ」と大きな声で義母に呼びかけた。  義母は横断歩道を渡るところだった。
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