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プロローグ
中立国にある白亜の殿堂セント・グレース学院は、貴族とジェントリ階級の娘たちが通うフィニッシングスクールで、入学に際してはかなり門戸が狭い。
高位の爵位持ちの卒業生や、財を成したジェントリ階級の卒業生の紹介がなければ面接も受けられない制度があり、そのおかげで学校のグレードや評判が保たれていた。
ただし、その学園には裏稼業があることを、学園に通っている令嬢とその親たちは知らずにいる。
その中の一人、いや二人であるエルギン伯爵の娘のメイジーとルビーの双子姉妹も、由緒正しいセント・グレース学院で恙なく学んでいくはずだった。
母を数年前に亡くし、交界デビューを目前に控えた二人にとって、セント・グレース学院は、貴族社会の細かい仕来りを学ぶには最適の場所だ。ただ、とにかく覚えなければならないことが多いのが多少煩わしくはあるのだけれど。
社交界のマナーはもちろんのこと、上流階級の男性の話に上手に相槌を打つために、読み書きの勉強や、狩り、株、文学、音楽など、多岐にわたる趣味や学問を身に着けなければならなかった。
「ようは花嫁修業なのよね。サロンの開き方や、パーティー招待状の送り先の選び方や、服装の授業は実際に必要不可欠だけれど、もっと流行のドレスの話とか、美味しいお菓子の店の話をしてほしいわ」
白とペールグリーンでまとめられた寮の一室で、ルビーが胸の開いたピンクのイブニングドレスに着替えながら、双子の妹メイジーに愚痴をこぼす。
いつもとりとめのなく続くルビーの文句を、聞いているフリで聞き流すのが上手くなったメイジーは、鏡に映るルビーと自分を見比べてふと考えた。
ブルーグレーの瞳の色は、メイジーの方が青味がかっていて濃く見えるけれど、はちみつ色の髪も顔も、ほぼ同じなのに、ルビーはどうしてこんなに華やかに見えるのだろうかと。
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