プロローグ

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 五十代のスミス校長は銀髪の似合う中背の恰幅のよい紳士で、いつも笑顔を絶やさない。ところが今日は渋面のまま立ち上がり、二人から素早く視線を逸らすと、同じく向かいのソファーから立ち上がった男性をちらりと窺った。  こちらに向き直った男性は、校長と同じ年代だろうか。ライトブラウンの髪にブラウンの瞳を持つどこか神経質そうな紳士で、メイジーとルビーの父、エルギン伯爵の顧問弁護士のマイヤーだと名乗ると、耳を疑うような事実を告げた。  エルギン伯爵が心臓発作で亡くなったため、至急帰るようにと。 「お父様がお亡くなりに? そんな……」  双子らしく同じ言葉が重なったが、誰も笑うものはなく緊張感がいや増しになる。二人は校長からも促され、変える支度を余儀なくされた。  突然二人を襲った不幸は、それだけで終わらなかった。  称号は男性しか継げないため、父の弟アーロンが伯爵になったが、本来なら保護すべきメイジーとルビーを、アーロンは今までのように令嬢として扱うことはできないと言い渡したのだ。  社交界デビューの世話はおろか、結婚の持参金すらもたせてやれないと聞いた時には、メイジーは目の前が真っ暗になった。  アーロンの傍らにいた娘のザラは、メイジーとルビーを憐れむどころか、勝ち誇ったように言った。 「今まで、伯爵令嬢として贅沢三昧してきたんだから、この辺で私に令嬢役を代わってくれたっていいじゃない。なんなら私のコンパニオンとして雇ってあげてもいいわよ。一人余分だから、どちらかは召使になってもらうけれど」
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