プロローグ

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 ルビーはザラを睨みつけると、叔父にも臆することなく、マイヤー弁護士に食ってかかった。 「そんなのおかしいわ。私たちが結婚するか二〇歳になったときに受け取れる財産が、信託銀行に預けてあることをお父様から聞いているのよ。それを渡してくれたら、私とメイジーは二人で暮らすわ」  マイヤー弁護士は額の汗をハンカチで拭きながら、その信託銀行の預金も前伯爵が使ったために、残っていないことを告げた。 「財源が失われた大きな原因は、植民地の新事業に多額の投資をしたことによる損失です」  メイジーはお洒落よりも、経済の発展や領地の運営の仕方に興味があったため、父から女には必要ないと窘められながらも教えを請い、セント・グレース学院に入るまでは父から帳簿を見せてもらうほど、経営に明るくなっていた。その帳簿には新事業への投資は記載されていなかったはずだ。 「二年前には、父は堅実な投資しかしていませんでした。いったいどなたの紹介で、どんなものに投資したのですか? 証書をみせてください」  弁護士が気まずげにアーロンを見る。その視線を受けたアーロンが、不機嫌な態度を隠さずに横柄に説明した。 「紹介したのは、私だ。すでに投資仲間が成功間違いなしだと太鼓判を押したから、一枚嚙ませてくれと兄の分を頼んだんだ。証書は兄が持っているんじゃないか」
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