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冷たい空気。一定の機械音。今日も朝が来た。 あの日からどれくらい朝を迎えただろう。昨日もこの光景を見た。一昨日も同じことを思った。 「これが現実なんだよなぁ」 俺には大好きな彼女がいた。 3か月前、彼女が 「赤ちゃんが出来た」と言ってきた。泣いてよろこんだ。自分と彼女の間に新しい命が生まれたことに心から感動した。彼女とこの先ずっと一緒にいられる。彼女として、ではなく家族として。でも、俺たちは結婚式していなかった。ずっといつプロポーズしようかと先延ばしにしていた。今日か、今日かと。明日、明日にはすると。でも今、子供が出来た。俺はパパになる。だから 「結婚しよう」 そう彼女に言った。やっと言えた。1か月前に買ってずっと大切に持っていた指輪も上げた。彼女はただただ泣いて「ありがとう、、」と言っていた。ずっとこの時間がこの空間が幸せが続いて欲しいと思っていた。これから先もっともっと幸せになっていくのだと当たり前に思っていた。 「ちょっとお昼ご飯買ってくるね」 よく晴れた日だった。秋のやさしい風が吹いていたあの日。朝からとても気持ち良かった。 「俺も一緒に行こうか?」そう聞いた。でも彼女は「大丈夫!今日はそんなに辛くないから」そう笑顔で答えた。最近は少し具合が悪そうだった。夜に何度も起きてトイレに行くのに付き合った。毎晩背中をさすった。苦しそうな顔をよく見てたからか、今日はなんだかやけに明るく元気に見えた。 「そっか。じゃ行ってらっしゃい。待ってるよ。あんま無理しないでね」そう言うと彼女は 「パパは心配性ですねー笑」とお腹を擦りながら笑った。 それから何分待っただろう。30分、1時間、1時間半、、、。彼女の行ったスーパーは徒歩15分もかからないところだ。普段だったら20分から30分程度で帰ってくる。でも今日は一向に彼女は帰ってこなかった。その代わりに外では救急車の音が響いていた。こんないい天気の日に救急搬送だなんて可哀想に、、、そんなことを思っていた。その時電話がなった。知らない番号。本当はその時から嫌な予感はしていた。でも違うと心が脳が体が全身で否定していた。絶対にあって欲しくない。そう強く思う時、こういう時に限ってなぜだか予想が的中してしまう。それが人生の残酷なところだ。 「阿部さんの旦那様の電話番号でお間違いないでしょうか?先程奥様が事故に合われ病院に搬送されました。とても危険な状態です。今すぐ来てください。」 これを聞いている時、車で病院に向かっている時、なんにも考えられなかった。何度も信号に引っかかった。早くしてくれ、、そう思っていた。でも本当はずっと赤のままでいてくれ、そう思っている自分もいた。彼女の姿を見たくない。見れない。現実じゃない。まだそう思っている自分がいた。 病院に着いた時、そこからの記憶はほとんどない。全てが滲んでいるようだ。唯一覚えているのは看護師の「亡くなった」の5語と彼女の寝顔。あとの記憶は涙で滲んでよく見えない。ぼやけている。深い、深い水の中から大事な何かを見ているようだった。彼女の両親が来るまで、俺は彼女の隣でずっと声を上げて泣いていたらしい。泣き止んだ頃、腹の奥から湧き上がるように後悔が押し寄せてくる感覚があった。押さえ切れない。来るな。来るな、そう思っても押し寄せてくる。苦しかった。ただただ苦しかった。自分が憎かった。悲しかった。 「俺が、俺が、あの時一緒に行っていれば」
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