第一話 海底に眠るモノ

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第一話 海底に眠るモノ

   二○一五年 六月  最近の漁場は変わった。昔は生きたイワシの鼻先にチョンとハリを掛けて、爆弾みたいに重たいオモリと一緒に海底に沈めれば、釣れるのは大抵、ヒラメだった。  温暖化のせいだろうか。海流すらも変わってしまった。黒潮と親潮の合流地点はますます北上し、温かい黒潮の影響で、今までは殆ど見かけなかったような妙にカラフルな魚が揚がる。  しかし、同じ仕掛けでマハタやキジハタがよく釣れるようになったのは良い。ヒラメに飽き飽きしている熟練の釣り人達にも楽しんでもらう事ができる。 「あーあ、また外道だよ。こん畜生!」 そう言って大型のハタ類の魚を釣り上げる釣り人の顔は、大抵綻んでいるものだ。  ここは千葉県いすみ市大原。俺の名前は右京源治(うきょうげんじ)。源徳丸という船宿を営んでいる船頭だ。所有する船は遊漁船一隻、十九トンの小型船舶だ。小型船舶と言っても、その中ではデカい方だ。釣り人の最大定員は二十名ってところだ。  船宿の評判は良い。メインターゲットのヒラメはもちろん、マハタ、キジハタ、時には超高級魚のオニカサゴが釣れる事だってある。正直、儲かっている。儲かってはいるが、それは釣り客のお陰だけって事でもない。他の太客がいるのだ。
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