第十九話 パソコンと巨悪

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「ありがとう! じゃあ、最新モデル上位機種のこれにするわ。あと、USBも買うわね」 「おう……」 帰りのタクシーの中、お母さんは久しぶりに活き活きとしていた。  それからというもの、退屈な日々が続いた。お母さんは日がな一日中パソコンに向かっていて、お父さんはタクシーで出かけたかと思ったら、得体の知れないフルーツなんかを買ってきては、それを嬉しそうに食べていた。  ドリアンを買って帰って来た時には驚いた。トゲトゲの堅い外皮の下にあるその果肉は、においに反してカスタードのようなクリーミーな甘さで、美味しかった。私はというと、ブロックMという日本人街の闇市場で買った海賊版のDVDを見てダラダラと過ごした。  そんな生活が三ヶ月ほど続いた頃だった。 「ついにやったわよ!」 お母さんが言った。 「この間探し当てた彼らの組織内ネットワークの中にアクセスできたわ。ブルートフォースアタックに随分と時間がかかってしまったけれど、やったわ。例の詐欺グループの動向が掴めたわ」 お父さんと私は、お母さんに駆け寄った。 「あの軽井沢事件から日本での活動は停止。報道のとおり、東条哲也、つまり、本名鮫島彰は行方を眩ませて、しばらくはどこにも姿を現さなかったようね。程なくして日本の組織は事実上解散。でも、問題はその後ね。キーマンはこの男、高峰ダグラス健介(たかみねダグラスけんすけ)。詐欺グループの主要メンバーの一人だったみたい。メキシコ人の父と日本人の母を持つハーフよ。彼と鮫島の間で交わされたメールメッセージを見つけたの。これを見て」 パソコンをお父さんの方に向けた。 「どれどれ……。なるほど……。高峰ダグラス健介という男は組織解散時に鮫島にコンタクトを取ったんだな。おい、待て、この高峰という男のメールアドレス、末尾がjpではなくてmxになっているぞ……。メキシコに里帰りしたってわけか?」 「ご明察。さすがね源治。そう、この高峰という男は組織が危なくなってすぐにメキシコに飛んだらしいわ。そして、そこで新たなビジネスの下地を作って、つい最近、鮫島を引き入れたってところ」
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