第十九話 パソコンと巨悪

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「つまり、鮫島も今はメキシコにいると?」 「そう。それで、新たなビジネスっていうのが、麻薬取引よ。この高峰って男、相当危険な人物ね。メキシコ人の父親のツテで、現地の麻薬カルテルと太いパイプで繋がっているみたい。別のメール文面から確認できたの。あと、彼の銀行口座の入出金記録にもアクセスできたわ。ローカルの航空会社に十万ドルの出金記録があったの」 「小型のプロペラ機を一機、一括で購入したのか」 「まあ、それくらいの金額よね」 彼女はその入出金記録を目で追いながら続けた。 「あと、メキシコの不動産会社への出金記録もあるわね。これも大金ね。この会社、メキシコのジャングルの土地を多く所有していて、外資企業への工場用地提供がコアビジネスね」 「なるほど。航空機の購入にジャングルの土地を買収……。買い上げた土地で大麻を栽培して、そこに隣接するように、お手製の滑走路も作っているんだろう。メキシコのジャングルで密かに大麻を栽培して、完成品である『白い粉』を乗せて飛行機で飛び立つのか……。あとはそれを太平洋に投下して、バイヤーが漁船か何かを装って近づきそれを回収すると、そんなところか?」 「さあ、私もそこまでは知らないわよ。その世界ではそんなやり方をするの?」 「そうだな。以前岩谷組で聞いた事がある。まあ、いずれにしても、これで一安心だな」 そう言うと、お父さんはパソコンから顔を離し、後ろの革張りのソファーにその大きな背中を預けた。 「アイツらの悪事は知ったこっちゃないが、結局、地球の反対側でよろしくやっているんだ。もう奴らから追われる事はないだろう。それに、ここはインドネシアだ。世界で最も麻薬に厳しい国の一つだ。奴らも遠路遙々、ここまでビジネスを拡大しに来る事はないだろう」 正直、その言葉は意外だった。もしも「鮫島を倒しに行くぞ!」なんて事になったら、私も闘う、そんな覚悟を固めていた自分がいた。 「しかし、これからどうするかな……。俺たちは国際指名手配犯だ」 そう言うと、お父さんはソファにもたれかかったまま、真っ白い天井を眺めた。
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