第二十話 銃撃と爆破

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正直、私も不安だった。しかし、もう他に選択肢がない事は分かっていた。  出国手続きを済ませて機内に搭乗した。離陸して、その高層ビルと赤煉瓦とモスクが不規則に建ち並ぶその地に二度と足を踏み入れる事はないのかと思うと、寂しさが込み上げて来た。  私は分かっていた。金城さんがあらゆる可能性を加味して偽造してくれた各国の入国ビザは、どれもインドネシア発のものだった。つまり、メキシコに着いたその先、自由に国境を越える事は限りなく困難になる。二回分の片道切符を使い果たした。そんな状況だったのだ。  ジャカルタのスカルノハッタ空港からメキシコシティへは、乗り継ぎ二回の長旅だった。二十四時間と少しの時間、不安で仕方がなかったが、今後の事を考えて、今のうちに眠っておく事に集中した。  メキシコの気候はジャカルタと同様に暑かったが、そこには乾燥した空気が吹いていた。公用語はスペイン語らしい。そこでもお父さんは流暢に現地の言葉を話していた。到着ゲートをくぐったところに、杖をついて、分厚い胸板ではち切れそうな背広を着た大男の猪熊さんと、スラッとした背広姿の平岡さんがいた。 「お嬢さん! 無事で良かった!」 猪熊さんは、その熊みたいに大きな腕で私を抱きしめた。 「さあさあ、早くこちらに」 平岡さんはそう言うと、私たちをワンボックスカーに案内した。
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