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数十分にわたる格闘の末に、大きなミナミマグロが揚がった。百キロ近い大物だ。高級な本マグロに比べて癖がなく甘みが強い。何より、獲れたてはやはり美味い。今回は自家消費する事にした。
「おい、勲。明日、空いてるか?」
「おいおい。急な電話かと思ったら、また急なお誘いかあ?」
「ああ。大物が釣れた。皆で食べよう」
「まったく、相変わらずだな……」
そう言うと、勲は電話越しに笑っていた。
俺は岸辺に向かって船を飛ばした。四時間かかった。港と砂浜が一望できる木造のテラス、それが俺と真美と春菜の家だった。俺はその家の調理場でマグロの解体を行った。
「ただいま。って、お父さん! またマグロ釣ってきたの?」
「ああ、デカいだろう!」
「すごいね! 食べきれないじゃない! またご近所さん誘ってパーティーするの?」
「まあ、そうなるな」
俺はたまにそんな事をする。ある種のチャリティイベントのようなものだ。近所の人達を無料のマグロパーティーに招待するのだ。うちの広い庭で行う。バーベキューパーティーのような物だ。単に食事を振る舞うボランティアって訳でもない。水産資源保護の重要性を訴える事も大きなテーマだ。
先日、地元紙にその取り組み内容を取り上げられたのがきっかけだ。「変わった日本人」として、度々マスメディアから取材を受けるようになった。すっかり有名人になってしまったのだ。
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