エピローグ

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「真美……。これは……」 「ずっと、婚約中だったじゃない?」 俺は手渡された小さなものに目をやった。俺の手の平には二つの指輪があった。 「結婚、してくれる?」 手元の指輪から顔を上げると、真美は真っ直ぐに俺を見つめていた。俺は恥ずかしさで、夕日と同じくらいに赤面した。 「いやあ、こりゃ参ったな……。俺は元ヤクザの人殺しだぞ……? 本当にいいのか?」 正直、俺には自信がなかった。組織の為とはいえ、道を誤った人間である。そんな人間に結婚する資格などあるのかと、自問自答の日々を送っていた。それでも真美と春菜との生活は、以前の危機を乗り越えた時から、なし崩し的にダラダラと続いてしまっていた。そんな中途半端な状態だったのだ。 「前にも言ったじゃない。あなたは私を救ってくれたスーパーヒーローよ」 そう言うと、真美の唇は俺のそれに軽く重なった。俺は悟った。こんな俺を受け入れてくれる真美は、俺にとってかけがえのない存在なのだ。人を愛するのに資格なんて必要ない。そんな事に気付かされた。  俺はその口づけを無言で受け入れ、その指輪を真美の薬指にはめた。もう片方の、ひとまわり大きな指輪は真美が俺の薬指にはめてくれた。真美の笑顔は、その目尻のシワでさえも尊く、愛おしかった。その時だった、後ろからクラッカーの音が鳴って、皆が寄り集まって来た。 「おう源治、お熱いねえ!」 「お父さん、お母さん、おめでとう!」 そこからは地元民も含めてのお祭り騒ぎだった。こんな俺でも今なら言える。人生、捨てたもんじゃないと。 〈了〉
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