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「源治、またホトケドジョウを貸切船で釣りたいんだが、来週の月曜日、十二名でいけるか?」
それはいつもの太客からの電話だった。
「おお、勲。空いてるぞ。十二名、それは間違いないな? 二十四名ではなくて」
「ああ、今回は十二名だ。二十四名に増える事はない」
「分かった。ひとり十だから、今回は百二十だ」
「おい源治、みなまで言うな。そんな事、分かってる。キレイなキャッシュを持って行く。使用済みの、汚くてキレイなキャッシュをな」
「おい勲、それこそ、みなまで言うな。分かったから、月曜日に来い」
「いつもわりーな。助かる。それじゃあ」
彼の名は猪熊勲(いのくまいさお)。名前のとおり、熊みたいな図体の大男だ。東京に事務所を置く岩谷組の若頭だ。と言っても、年齢は俺と同じ、三十八だ。昔からの腐れ縁だ。こうやって良い仕事を持ちかけて来るので、ダラダラと関係が続いている。仕事の割に金払いが良い。助かっている。しかし、急な話が多い上に人数変更も頻繁なのが玉に瑕だ。その電話の翌日、また勲から連絡があった。
「源治わりぃ、人数が増える。冷凍庫が一杯になっちまったんだ……」
「またか……。で、二十四人か?」
「そうだ」
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