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「じゃあ、二十人な。それがあの船の限界だ。で、四人にはクーラーボックスを二つ持たせろ。それで良いだろ?」
「分かった。料金だが……」
「ダメだ、ひとり十だが今回は二十人で二百四十だ」
「だよな、そう怒るなって。分かったよ」
「それじゃあ、月曜日にホトケドジョウ釣り、予約代表者猪熊勲で二十名、予約承ったからな。これ以上予定変更はなしだ。分かったな」
そう言って俺は電話を切った。ホトケドジョウとはドジョウの仲間だ。淡水魚だ。無論、九十九里浜沖の海底に居るはずもない。実はこの仕事、その「ホトケ」を「釣る」というよりは「沈める」仕事なのだ……。
そして月曜日だ。夜明け前の早朝四時半。大原漁港だ。初夏の外房の海風は存外冷たい。
「おう、源治、今日もよろしく頼む」
「おう」
「ほらよ、こいつ」
そう言うと勲は釣り用のウェアの下に履いたズボンのポケットから、窮屈そうに体をよじらせて札束を取り出した。
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