第一話 海底に眠るモノ

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 勲を含む釣り人二十人を乗せたら、イワシの生き餌を積んだ釣り船に乗り込み、大原港を出港した。釣り場までは一時間半程だ。他の船宿よりも三十分ほど遠出する。そこに、特別なポイントがあるのだ。  外房の海は荒れる。操舵室は良い。揺れさえ慣れれば快適だ。しかし、釣り人となると別だ。釣座に座る彼らは、常に海風と波しぶきに晒される。まるで暴風雨のような中、一時間半耐え忍ぶのだ。体力も要る。皆無口になる。しかし、その仕事はそこまでする価値があるのだ。当然、彼らにも報酬が出るのだろう。本物の「おやっさん」から……。  釣り場に着くと、普通は仕掛けに餌を付けて海底に落とす。しかし、彼らがそこで落とすのは、そのクーラーボックスの中身だ。それぞれの中にはコンクリ詰めの一斗缶が一つずつ入っている。一つあたり米俵ほどの重さだ。それを各自、揺れる船上で四苦八苦しながら、何とか海に投げ入れるのだ。  その中身について野暮な事は聞くまい。いつも中身について詮索したりはしない。それが長生きする秘訣だ……。とは言え、おおよその察しはつく。  人間という生き物は珍しく、その肉よりも内臓に価値がある。恐らく、金目になる内蔵をあらかた抜き取った残りを冷凍保存して腐敗を防ぎ、それを糸鋸か何かで切断して、数キロ程度に小分けするのだろう。そしてそれらを一斗缶に入れて、そこに生コンを流し込んで固める。そんなところだろう。  そうすると、大人一人が一斗缶十二本程に分割される事になる。この「ホトケドジョウ釣り」の予約人数が大抵十二の倍数を前後するのは、そういった理由からだろう。
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