28人が本棚に入れています
本棚に追加
第二話 ミーコと嬢ちゃん
俺のボロい船宿兼自宅には猫が居着いている。いわゆる「地域猫」というものだろう。きっかけは魚だった。ヒラメは高級魚だが、正直飽き飽きしている。その白身の一欠けを気まぐれに通りかかった三毛猫にやったら喜んで食ったのだ。そして、いとも簡単に居着いてしまったのである。メスだった。ミーコと名付けた。
その日も釣ったヒラメとキジハタを捌いた。慣れているので早い。ものの数分だ。そしていつも通り、船宿も兼ねた平屋のボロ屋敷の軒下に置いてやるのだ。
最近ミーコの為に皿を買ってやった。独り身のこんな俺には到底似つかわしくない、ピンクの花柄の小さな平皿だ。ミーコは嬉しそうに、まあ、もちろん猫の表情など分からないが、嬉しそうに、そんな雰囲気で、その魚の肉片にかぶりつくのだ。いつもミーコが食べ始めて、食べ終わるまで眺めていた。何があるという訳でもないのに……。
「その猫ちゃん、お名前なあに?」
そう言う声の先に女の子が立っていた。花柄のワンピースは少しほつれて、色落ちしていた。白かったかもしれない運動靴は泥やら砂やら何やらで、酷く黄色く薄汚れている。
「ミーコ。メスだ」
「へえーかわいー」
そう言うと、その女の子はミーコの背中を触ろうとした。
「危ないぞ!」
最初のコメントを投稿しよう!