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遅かった。ミーコは食事中に触られるのを嫌う。その女の子は伸ばした小さな右手にこれまた小さなひっかき傷を作ってしまった。
「食事中に触るからだ」
「ごめんなさい」
その謝罪は俺に向けられたものなのか、ミーコに向けられたものなのか、分からなかった。その子の表情は今にも泣き出しそうだったが、口をへの字に曲げ、顎のあたりをシワシワにしながらグッとその感情を堪えていた。
「消毒薬と絆創膏を持って来る。そこで待ってろ」
そう言って俺はタンスの中を探した。整理されていないゴチャゴチャのタンスから消毒薬と絆創膏を取り出し、軒下に戻った時、そこには平然と毛繕いをするミーコと、空の平皿だけが残っていた。
次の日、一般客を相手にした後の夕方である。いつものようにミーコに獲れたての鮮魚を与えている時だった。また、女の子が現れた。またまた花柄のワンピースに汚い運動靴、昨日と同じ格好だった。電柱の後ろに隠れて言った。
「ミーちゃん、ごはん終わったら引っ掻かない?」
「引っ掻かないぞ」
「じゃあ、わたし、待ってる」
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