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「いったい、何だったの?」
王太子の出ていったドアを見つめつつつぶやいていた。
何だかよくわからないが、私の訴えは伝わっているのかな。
どかりとソファに座りなおすと用意されていた紅茶に口をつけた。
「真面目な話、エリノア様ほど妃向きな人はいないだろうと思うのよね」
「それはありがとう」
びっくりして飲んでた紅茶を吹きそうになる。見ると、黒バラの君、エリノア様が、黒いドレス姿でドア付近に立っていた。
「あ、あの」
「マリベルさん、あなた別人のようよね」
「え! そんなことは」
ふふふと笑ったエリノアは、私に近づくと、
「あなた転生者なんでしょう?」
「!?」
にこりとした笑みを浮かべたエリノアは、
「隠さなくても大丈夫よ。私も転生者だもの」
え!? えーっ!
そ、そうか、そうだった。
エリノアは転生者っていう設定で。婚約破棄の断罪劇を覆し、自分の道をすすんで行く、そんな話だったけど。
「でも、それは」
お話の設定上の話で。あれ? どうなってんのこれ。
「あなたは日本のOLさん? それとも学生とか?」
「あ、OLです」
「私もよ」
そういう話だったっけ。
にこにことしているエリノアは、自分の話をしていくが、それは設定ですよ、とも言えず。嬉しそうに話す姿を見ていたら、どうでもいいかと思えてきた。
私だって、本当は何なのかなんてわからない。
ただ、この世界に生きているのは一緒なんだし。
エリノアから秘密を打ち明けられ、あることを依頼されて数か月たっていた。
王太子とエリノアは、結婚した。
そして私は。
「マリベルさん、この書類を調べておいてくれますか」
「はい」
カスティバルが大量の書類を私の机に置く。
「うわっ、多っ……」
「何か?」
「あ、いえ、何でもないです」
カスティバルは眼鏡の奥からこちらをちらりと見てくる。この感じ、原作通り、メガネ男子で切れ者で手厳しいけど。
「カスティバルさん、マリベルさんに期待してるから」
「あれですよね。ツンデレっていうんでしょう?」
職場の同僚がにこにこと説明してくる。
途端、カスティバルが
「何言って」と焦りまくって眉を吊り上げている。
エリノアは結婚後も王太子を支え、今は貴族の中に蔓延している不正を正そうと行動を開始している。それも隠密に。
カスティバルやほか数名が王太子、王太子妃付きの仕事をしているがこっそりと隠密行動もしている。
まさにスパイだ。
この世界でこんな筋書きがくるなんて。
私は左上に浮かぶ人型と1の数字を見上げた。
残基1はいまだ私の頭上に浮かんでいる。
だけど、これってみんな同じよね。
残基は1。
でもその1を頑張って生きている。
うんうんとひとり唸っていると、
「マリベル」
とカスティバルがこっそりメモを手渡してきた。
そこには、
「19時にカフェまで来ること」
と書いてあった。ちらりと見ると、そっと口角を上げで微笑むカスティバルのSSRな表情に思わず頬が緩んでしまっていた。
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