2人が本棚に入れています
本棚に追加
【2回目】
俺が死ぬ半年前、匿名の内部告発による横領の発覚で、経理部長が左遷されて社内で話題になった。
経理課の内さんについて調べると、なんと経理部長の愛人だった。
内さんと時間をかけて親しくなり、不倫の相談を受けるまでになると、奥さんに不倫をバラせば離婚するはずだと、内さんを焚きつけた。
実際、左遷された経理部長は奥さんに捨てられていたので、不倫も発覚すれば別れるだろうと思った。
案の定、経理部長は離婚することになり、内さんは奥さんから慰謝料を請求された。
困った内さんから相談されて、俺は内心ほくそ笑む。
「経理部長がお金の作り方を知ってるよ。それでね、俺からひとつ頼みがあるんだけど……」
内さんと経理部長の横領を、寿樹の仕業として告発させた。もちろん証拠も捏造して。
こうして、経理部長の代わりに寿樹が左遷され、ド田舎の子会社へと出向になった。
田舎が嫌で都会に出てきたと言っていた瑠唯が、寿樹についていくことはない。
そもそも、分岐点の日は前回同様店に行き、その後も前回の記憶を頼りに、寿樹と瑠唯の接触をできるだけ阻止してきたのだ。
今度こそ瑠唯の過ちは正される。寿樹さえいなければ、俺と別れることもないだろう。
だが、数カ月後、瑠唯から別れを切り出される。
「好きな人ができたの。その人も私を愛してくれてる」
相手は知らない男だった。
何故だ……。
そして、その日が来た。
俺は昼食をとりに行った定食屋から職場へ戻る途中、横断歩道の前で信号待ちをしていた。
視界が白く弾け、そして暗転した。
「どっか痛いとこある?」
男の声で目を覚まし、体を起こす。
「背中痛ない?」
「……」
「……なぁ、過ちを正せるんは、自分だけや思わへん?」
「え?」
男は、呆れ顔でこちらを見ている。
過ちを正せるのは自分だけ?
自分の過ちを正すってことか?
俺の過ち?
「そうか! 質問だ! 杉谷範子の勤め先を教えてくれ!」
「……はあ?」
男は、心底意味が分からないという顔をした。
そこまでする必要はないと言いたいのだろう。
でも、念には念をだ。
最初のコメントを投稿しよう!