2人が本棚に入れています
本棚に追加
自宅の最寄り駅で電車を降り、フラフラとホームのベンチに腰かけた。
怒りで頭痛がする。
今朝、友人でもある同期の寿樹の昇進が正式に発表され、寿樹はその場で自らの婚約も報告した。
昇進がかかった社内コンペでの寿樹のプレゼン内容は、俺の内容の問題点を全て解消するものだった。悔しくはあったが、素直に負けを認めていたし、祝福する気持ちが確かにあった。
だが、寿樹が皆に婚約者の写真を見せた時、息が止まるほど驚いた。写真の中の女性は、数カ月前に別れた俺の元カノ、瑠唯だった。俺と目が合うと寿樹は、薄ら笑いを浮かべた。
三年付き合った瑠唯に別れを切り出されたのは、コンペ目前の大事な時期で、落ち着いてから話し合おうと言う俺を「いつも私のことは後回しじゃない!」と連日責めて疲弊させた。あげく「もう他に好きな人がいるし、その人も私を愛してくれてる」と言われた頃には、浮気を問い詰める気力も奪われていた。
正直、瑠唯との別れ話が無ければ、プレゼン内容をもう少し詰められた。瑠唯と寿樹がグルなら、あのタイミングでの別れ話はわざとに違いない。それに、俺のプレゼン内容のデータを盗んで寿樹に渡すことが、瑠唯には可能だった。
友人と恋人に裏切られていたことに気が付いて仕事が手につかず、体調不良を理由に早退してきた。
「……」
頭痛が落ち着き、ベンチから腰を上げる。
家に帰り、ゆっくり休もう。
そして、俺を裏切った二人への復讐を考えなければ。
改札に続く階段を降りようと足を踏み出した瞬間、突然視界が白く弾け、そして暗転した。
最初のコメントを投稿しよう!