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「……チッ」
「おい」
携帯端末で後藤周平の様子を見ていたオレは、軍服のイケメンゴリラに呼ばれて顔を上げた。
「先輩、お疲れーっす」
「失敗か?」
「いや、分岐点の日一日、引きこもりそうなんで、大丈夫ちゃいますかね」
「あ?じゃあ何の舌打ちだ」
「こいつ罪の意識無いんですもん。反省したんやなくて、殺される恐怖で引きこもってるだけですよ」
布団の中で怯える周平の画面を先輩に見せる。
先輩は画面の中の周平をゴミを見るような目で見ている。
「……まぁいい。後藤周平があの日痴漢をしなければ、自殺者を二名救える。できれば改心させたかったが仕方がない」
分岐点の日、範子に痴漢を働いたのは周平だ。彼はストレス発散に痴漢をする男だった。あの日周平は、範子の勘違いを良い事に、隣の男にまんまと罪を擦り付けたのだ。
濡れ衣を着せられた男は、その後、痴漢の疑いは晴れたが噂が広まり、仕事をクビになる。さらに、婚約者の両親、特に母親に反対され、婚約破棄。
一年後、自暴自棄になっていた男は、自分を捕まえた周平を偶々見かけて恨みが爆発し、衝動的に殺害してしまう。
すぐに逮捕され、それを知った元婚約者が、一年前に自分が見捨てたせいで男を殺人犯にしてしまったと後悔の念に駆られ自殺。その後、元婚約者の母親が、娘を自殺するほど追い詰めてしまったと自分を責め自殺。
「こんなクズの寿命延ばさんでええのに。社長も融通が利かんよな」
周平は、痴漢を働かず殺されなくても、寿命なので一年後には死ぬ予定だった。だが、課題を達成すれば、寿命は延びる。
画面の中の周平は「あと一回しかない」と、何度も呟いて震えている。
「アホか。人生は本来、一回だけやろ」
同意するように「ふん」と鼻を鳴らした先輩は、去り際にこう言った。
「死神を社長と呼ぶのはやめろ」
(終)
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