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「お客さーん」
頭の上から声がして、目を覚ます。右肩を下にして倒れているようだ。
体を起こして目線を上げると、男が立っていた。
「おはようさん」
関西訛りで話すその男は、目を惹かれるような男前だった。大きな目と薄い唇からは女性っぽい色気を、太く凛々しい眉と存在感ある形の良い鼻からは男らしさを感じる。ラテン系イケメンという言葉が頭に浮かんだ。
ただ、首から下はちぐはぐな格好をしている。
上は、緑色のタンクトップの上に、白地に無数の三食団子が描かれたシャツを羽織っている。下は左が白で右が黒の、左右色違いの袴を穿いている。裾から覗く靴の先は、黒くてごつい。
「後藤周平さんやね。どっか痛いとこある?」
男はしゃがんで、俺と目線を合わせると、そう尋ねてきた。何故か名前を知られている。
近づいて気付いたが、黒い髪は後頭部で団子に結われているようだ。その団子は、白いレースで縁取りされた赤いチェックの布で丸く覆われている。親戚の家のドアノブカバーを思い出す。
「右肩が少し……」
混乱しつつ、聞かれたことに答える。
「肩痛いん? 死んだ時ぶつけたんかな?」
そう言いつつ、俺の右肩を大きな手でさする。
「背中は痛ない?」
心配しているというよりは、様子を伺っている感じがする。
そんなことよりも……。
「死んだ時……?」
男が立ち上がったので、つられて立ち上がる。
男は背も高い。
「お客さんは死んでしもたんやけど、やり直しチケット五枚で分岐点から人生やり直しできんねん。強制やないけど上手くいけば寿命延びるし、やるやろ?」
……え?
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