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人の寿命は決まっていて、病死や、事故や他殺による死も、定められた寿命によるものだそうだ。しかし、自殺は寿命によるものではないらしい。
「最近は自殺が多くてなー。止めたいけど、絶望が強過ぎると止められへんねん」
そこで、寿命で死んだ者に課題を与え、課題を達成した者に自殺者の残した寿命を割り振っているらしい。
「もちろん寿命で死んだ者全員やなくて、年齢とか死に方とか未練とか……その他諸々で選ばれし者だけな」
俺は若いし、あいつらへの復讐という未練が残っているから選ばれたのか。
「お客さんの課題は『やり直しチケット五枚で過ちを正せ』やで。分岐点である一年前から人生やり直して、過ちを正してや」
「過ちを正す? どういう意味だ?」
「そのままの意味やで」
男は俺の目を見て即答する。
「その過ちってのを見つけるのも課題の内か?」
「せやで。自分で気付かんとあかんねん」
「何で一年前なんだ? 分岐点って言ってたけど……」
「分岐点は、過ちを正すために必要な選択をせなあかん日やねん。せやから、戻るその日が重要やで」
「過ちを正せなかったらどうなる?」
「今回と同じ日に死ぬ。ほんでまたオレとお話して、一年前に戻る。チケットが無くなるまではその繰り返しやね」
チケットが無くなったら、死んで終わり……。
チャンスは五回。
「あんた、死神なのか?」
俺が尋ねると、男は声をあげて笑った。
「ちゃうよ!でもまあ、社長の下で死んだ者の管理してるんやから似たようなもんか」
「社長?」
俺のことも客と呼んでいるし、何かの組織なのだろうか。
「ぼちぼちいこか。やり直しチケット一枚につき、ひとつだけ質問に答えたる。過ちを正すためのヒントは、これでしか教えられへんねん。何が聞きたい?」
ヒントになりそうなこと……。急に言われても、見当もつかない。
少し悩み、結局、一番知りたいことを聞いた。
「……瑠唯と寿樹は、いつから俺を裏切ってたんだ?」
「……しょうもないこと聞くやん」
俺の質問を聞いた途端、男の顔から表情が消えた。俺はムッとする。
「俺にとっては重要なことだ! やり直しができるなら、まずはあいつらに復讐してやる!」
「あっそ。二人がいつから付き合うてたかっちゅう質問やな?」
「ああ」
「お客さんに隠れて、二人で会うとったんは一年半前からやな。ほんで、一線超えたんは一年前や」
「そんな!」
瑠唯と付き合っていた三年のうち、半分も裏切られていたのか!
「一年前って……!」
「質問には答えたし、もう行ってもらわな。ほな頑張ってな」
俺の声を遮り、一方的に会話を終わらせた男が、お札ほどの大きさの白い紙を一枚破いた。
すると、途端に視界が歪み、気が遠くなる。
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