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【4回目】
前回と同様に範子と交際を始め、日記を読む機会を得る。
分岐点より半年ほど前に、カフェで珈琲を零し慌てている範子に「大丈夫ですか? 良ければこれどうぞ」と言ってポケットティッシュを差し出してくれた男のことが記されていた。
お礼を言う間もなく去った男を、何度もカフェに通って探したが、会えなかったことも。
そして分岐点の日、カフェの男が痴漢から自分を助け、同じセリフでティッシュを差し出したことが興奮気味に書かれている。
分岐点の日より後は、痴漢被害による辛さが度々綴られており、気分が滅入るので読むのをやめた。
あの男が言いたかったのはこれだ!
運命的な出会いと再会に俺が気付いていないため、範子は胸を痛めているのだ。
運命の相手を悲しませているという過ちを正そう。
俺は作戦を練った。
あれから準備を整えて、例のカフェに範子を誘った。
やはり初めて訪れたカフェだったが、範子は俺に期待の眼差しを送っている。
俺は指輪を渡し、範子にプロポーズした。
涙を浮かべる範子に「大丈夫ですか? 良ければこれどうぞ」と言ってポケットティッシュを差し出すと「思い出してくれたのね!」と感激していた。
これでやっと……。
そしてその日が来て、定食屋から職場へ戻る途中、信号待ちをしていると視界が白く弾け……。
「自分、驚きのクズやな」
男の声に、俺は激高した。
「何でだよ! あんたの言った通り範子の痛みを知って、それを取り除いてやっただろ!」
「カフェで範子ちゃん助けたんはお前ちゃうやろ。お前ホンマ卑怯者やな。他人に成りすましたり、他人に罪を擦り付けたり」
男の言葉にドキッとする。
「チケットはあと一枚。次が最後やぞ」
「あと……一回」
あと一回しかない。
「……背中、痛ないか?」
「は?」
急に何を……。
そう言えば前にも同じことを……。
意識した途端、背中に人の手の感触が蘇る。
階段の前で、そして横断歩道の前で、俺は誰かに背中を押されて……!
「質問は?」
男が静かに問う。
「俺は……何で死んだんだ?」
「恨まれて、殺されたんや」
殺された? じゃあ、植木鉢や車の事故も?
「何で……誰に?」
「質問は終いや」
「待って! だってそんな……何で!」
「最初に説明したやろ? 分岐点は、過ちを正すために必要な選択をせなあかん日。戻るその日が重要なんや」
「あの日、誰かに恨まれた……?」
男がチケットに手をかける。
「待って! 俺はどうしたら……!」
「恨まれるようなことを、せんかったらええだけや」
チケットが破られる。
「ほな、さいなら」
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