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背中から押し出されるように、車に衝撃が走った。
ドン、と低い音が響き、小雪は自分の不運さに、思わず嗤ってしまった。
どうやら、車をぶつけられたらしい。
──追突事故だ。
前後にも動けない渋滞の最中。小雪は、セダンを降りてこちらに向かってくる男の姿をバックミラーで確認していた。
小雪の車にはバックカメラを付けてあるので、証拠は抑えている。
外は暗く、そして相手の車は黒かった。が、相手の車体は汚れひとつなく磨かれて、わずかな光をも反射して黒光りしていた。これなら、バッチリ映っていることだろう。
小雪は感情を抑えるように、大きく息を吸って、ゆくりと吐いた。
そして、ハザードランプを付けると、ぶつけられた箇所を確認するため、運転席から慎重に道路に出た。
「すみません、ぶつけてしまいました……」
男はそういうと、弱々しい表情で小雪の様子を伺う。
小雪は「そうみたいですね」と、あくまでも冷静に言い放った。
男は何も言葉が出てこないようで、ただ眉を垂れて、小雪を見るばかり。小雪は男の様子を横目に、自分の車の状態と、相手の車の状態を見比べていた。
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