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小雪に取り残された男は、急いで携帯を取り出した。
そして、連絡先のなかの、『高原秀一郎』の文字に、おそるおそる触れた。
無機質な呼び出し音が鳴る。
三コール目で、高原は応じた。
『なんだ。』
「あの、社長……申し訳ありません……」
男は、言い淀みながらも、高原に謝罪をした。
しかし、続けるはずの言葉が、男の喉につっかえてなかなか出てこない。
『なにがだ。』
高原は、男に端的に問いかけた。
「あ……あ、その……社長のお車を、ぶつけてしまいました……」
──静寂。
男は高原の叱責を予想して身構えていたが、高原からの反応は、『沈黙』であった。
やがて、高原は押し出すような低い声で男に言った。
『そうか。現状は』
「あ、えっと……たったいま、相手方が帰られて、明日ご連絡差し上げると伝えています」
『……わかった。』
男は高原のオトナな対応に、驚いた。
男は高原に、とりあえず今から車を高原のもとへ持ってくるようにと言われたので、「わかりました」と返事をして電話を切った。
男は、最後まで高原に叱られずに済んだため、安堵の息をついた。
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