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Act3. 責任
例の研究室。テレパシー通信装置の開発プロジェクトは続いていたが、上層部は例の件への関与を否定するのに忙しく、進捗管理もされなくなっていた。
他の研究員たちは帰ってしまい、二人だけが残っていた。
「聞いた? 明後日の委員会でこのプロジェクトの無期限停止が決定されるって」
「ああ。報告書上は、まだ少人数対象の基本送信機能がテスト中だから、例の件への関与は疑われていないようだけど。上としては事態が鎮静化するまで開発を見送るんだろうな」
「鎮静化って、日に日にどんどん悪化しているのに……本当に鎮静化する日が来るのかしら……」
「確かに、いつパニックで動乱や戦争が起こってもおかしくない状況だ……」
男は女の隣の席に移ると、向かい合って女の顔を見た。
「相談なんだけど。もう一回、全人類向けの送信をやらないか?」
「え⁈」
「あと一回の対象がわからないから世界中が混乱している。だから答えを出してあげれば事態は沈静化すると思うんだ」
「でも、何にするの? 世界中の人々が対象よ」
「明日までに考えてこよう。明後日に開発停止が決定すれば装置は動かせなくなる。チャンスは明日の一回だけだ」
「またやると、今度は関与を疑われない?」
男は悲しげに微笑んだ。
「露呈して罪に問われるかもしれない。でも、こうなってはもうやり過ごせないよ。責任を取らないと」
「──そうよね。必死に考えてくるわ」
「ありがとう。また明日」
「おやすみなさい」
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