不注意の結末

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Act1. 天啓① 《あと一回だけ》  それは、何の前触れもなく突然現れた。  それも世界中の人々の頭の中に、同時に。  頭の中に文章が浮かんだのではなく、誰かがあと一回何かを頼みたい気持ちが伝わってきたようであった。  日本ではちょうどお昼を過ぎた頃──。  「?」  人々の動きが一瞬止まって、周りを見渡し、幻聴の類いでないことをお互い確認しあうと、騒ぎがじわじわ広がっていく。  テレビでは臨時ニュースでそのことが語られ、ネットでは『あと一回』がトレンドワードになった。  もちろん日本に限らず、世界中で同じことが起きていた。日本の反対側では就寝中で気づかない人もいたが、多くの人があと一回と頼まれる夢を見たと語り、驚いて飛び起きた人もいた。  世界中で様々な憶測が飛び交った。  神の啓示、地球外生命体からのコンタクト、未来人からの警告、大国が極秘裏に開発した兵器、等々。  発生時は懇願のイメージで受け取った人が多かった。  しかし、全人類に送られたのは啓示や警告と考えるのが妥当だと有識者たちが言い始め、様相が変わった。人類にあと一回、何が許されるのか、二回以上行うとペナルティがあるのかが興味の中心になった。  一週間もすると、あれは人類滅亡の予言だということになり、世界中が大混乱に陥った。  各国政府は事態の収拾を図ったが効果はなく、それどころか陰謀論を使った非難合戦も拡大していった。  日に日に事態は悪化して混迷を極めた。  世界中に不安と疑心暗鬼が蔓延し、まさに一触即発の状態であった。
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