百夜通いのその先は

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 そうして、また半月ほどが過ぎました。  いつものように手ぶらで出かけた若者が、都から戻ってきた時には大きなつづらを背負っていました。  驚く妹の前で、若者はつづらを開けました。中からは、いくつもの反物や帯、鏡や櫛などが出てきました。そして、若者はそれらを妹の前に並べると言いました。 「おまえには苦労をかけたな。早く俺が嫁をもらえば良かったのだが、鳥刺しに夢中になるあまりそれもできず、おまえにばかり頼ってしまった。これは、これまでおれが貯めていた金子で手に入れたものだ。これを持って、この頃ちょくちょく家に来る、あの寺男のところへ嫁に行け!」 「兄さん、ありがとう。でも、一人になって兄さんは、これからどうやって暮らしていくの?」 「俺には、鳥刺しの仕事がある。食うに困ることはないさ。粥を炊いたり魚を焼いたりするぐらいはできるし、洗濯だって薪割りだって任せておけ。おまえは、何も心配することはないよ」  妹は、それ以上何かを問いただしたり、余計な忠告をしたりすることはやめ、「わたしも、ときどき様子を見に来るから」と言って、嫁に行くことを承諾しました。  若者が妹の話をしに行くと、寺男の方は、もう願ったり叶ったりで大喜びだったので、二日後には寺で簡単な婚礼を行い、妹は嫁いでいったのでした。  一人になった若者は、もう何も気にすることなく、好きなときに鳥寄せ笛の稽古をして、小鳥たちとのんびり過ごし、日が傾く頃に都へ出かけて行くようになりました。  若者は、妹を安心させようと、ときどき都の土産を届けに寺を訪ねました。  穏やかに穏やかに、時は流れていきました。
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