勇者の正体

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勇者の正体

 「姉さん、どうしてもあいつのところに戻るのかい?あんな力で全てをねじ伏せるようなモラハラパワハラ野郎のところへ」 魔王城にほど近いハズレ村。勇者の家はハズレ村のそのまたはずれにひっそりと建っていた。 「オリオン、どうかあの人のことを悪く言うのはやめて。確かに力は少し強いし、オレオレなところもあるけれど、根は悪い人ではないの」 幼いころ両親を亡くした勇者にとって姉さんは親代わりであり唯一の家族であり、かけがえのない存在だった。だがしかし、勇者になるべく修行にでている間に姉さんは大っ嫌いな幼馴染と結婚してしまったのだ。 「息子なら俺が取り返してくるから一緒にここで暮らそう」 ようやく王様から正式な勇者に任命され、姉さんと姉さんの息子も養うことができると思ったのに、姉さんは喜ぶどころか血相を変えて戻ってきたのだ。反対するために。 「魔王と戦うなんて無理よ。オリオンには死んでほしくないの」 姉さんは優しい。優しいからあんなくそ野郎に騙されてしまうのだ。 「姉さんのためなら死ねるよ。あ、でも姉さんが生きてほしいというなら生きるけど。生きて3人で幸せに暮らそう」 勇者オリオンは立派で完璧なシスコンであった。 「私はオリオンも好きあな人と結婚して、オリオンの子どもと私の息子とおなかの赤ちゃん。みんな一緒に仲良く遊んでいる姿がみたいな」 陶器のような白い肌にカナリアのような声。姉さん以外に結婚したい人はいないのである。 「それは無理な相談だよ」 頑固な弟に困り顔の姉さんだが、それもまた美しい。 「あ、うなじぃが迎えにきてくれた。私そろそろ戻るね。ラリエルに会いたくて会いたくてしょうがないの。勇者なんて危ない職業じゃなくて、公務員試験受けてみたら?あ、勇者も公務員なのかな?王様に任命されるんだし。とにかく、オリオンが怪我したら心配なの。魔王って強いみたいだし」 昔馴染みのもふもふドラゴンが迎えに来た。姉さんは気づいていないのだろう。心も美しすぎて疑うことを知らないから。もふもふドラゴンは人にも魔族にも飼い慣らされることはない。できるのは唯一、魔王のみ。姉さんが「まおう」と呼んでいる幼馴染はあの「魔王」なのである。  絶対許さないからな、魔王。必ず姉さんを奪い返してみせる。
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