門出

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「シーナは自分を治せない。だからオリヴァーさんも広範囲に支援魔法をかけられるシーナの実力を知っていながら後方支援に回したんだ」  アランの言葉に目を見張る。  自分を治せない? じゃあなんで私に靴を履かせたの? 私のことを治せるなら裸足で走らせて後で治せばいいのに。私を庇わなければ気を失うほどの傷を負わなかったのに。 「なんで私を助けたの? 助けなければシーナは怪我なんてしなかったんだよ」 「なんでって言われても、勝手に体が動いちゃうから分からないよ。でも、チアが無事でよかった」  シーナをギュッと抱きしめて子供のように声を上げて泣いた。  一緒に生活していた人たちには売られたのに、会ったばかりの私の体の傷も心の傷もシーナが癒してくれた。  ひとしきり泣いて体を離す。 「どうやったらギルドに入れる?」 「え? ギルドに入りたいの?」 「自分を治すことができないなら、私がシーナが傷つかないように守る!」  絶対にシーナを傷つけさせない。 「ありがとう」  シーナは目を細めてはにかんだ。 「シーナ!」  扉を壊さんばかりに轟音を立ててオリヴァーが部屋に入ってきた。  傷のない姿を見て肩の力を抜くが、すぐに厳しい目つきになる。 「俺はお前に怪我人を治せって言ったよな! 前線に来いなんて言っていない」 「ごめんなさい」  オリヴァーの怒号にシーナは体を縮めて俯いた。 「無事でよかった」  打って変わって表情と声を柔らかくし、オリヴァーがシーナの頭を撫で回す。ごめんなさい、震える小さな声がもう一度聞こえた。 「オリヴァーさん、こっちの少女がギルドに入りたいと」  アランが私の背を押し、オリヴァーの前に立たせる。 「チアです。どうやったらギルドに入れますか?」  オリヴァーが私を真剣な瞳で見つめる。私も目に力を込めて見上げた。 「なぜギルドに入りたい?」 「シーナが傷つかないように」  オリヴァーは小さく頷いて笑った。 「シーナはすぐに無茶をするからな。助けてやってくれ。それに元々スカウトするつもりだったからな。街を救ってくれてありがとう。ギルドマスターとして礼を言う」 「チアがいなければもっと被害は拡大していた。助かった、ありがとう。これからよろしく」  アランにも頭を下げられる。 「街を直す作業は明日から頑張るとして、今日はドラゴン討伐と新しい仲間の歓迎の宴を開くぞ!」  シーナとアランが、はい、と返事をする。私は戸惑うばかり。 「え? 先に建物を直さないの?」  シーナに声をかければ、目を瞬かせて首を傾ける。 「お祝いのが先でしょ? チアがギルドに入ってくれて嬉しい。これからも一緒だね」  シーナが私の手を引いた。外へ駆け出す。  壊されていないエリアに料理や酒やジュースが大量に運び込まれた。  食べて歌って踊って、全員が寝落ちするまで祝宴は続いた。  隣で規則正しい寝息を立てるシーナを見つめる。 「これからよろしくね」  私の言葉が聞こえたかのようなタイミングでシーナが口の端を広げた。
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