門出

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 荷馬車に手足を縛られて放り込まれた。何時間も整備されていない道をひたすら走る。  私はずっと親切にしてくれていた村人に売られたと知り、絶望で目の前が真っ暗になった。私が売れるようになるくらい成長するまで待っていたのだ。身寄りのない私が貧しい村で生きてこれたのはそのためだと奴隷商は言っていた。    物資の補給をするため、途中で街に立ち寄った。周りから聞こえる音で活気のある街だと知れる。荷馬車の中から出ることは叶わず、瞼を閉じて話し声や歌声に耳を傾けた。  突如轟音が響き、人の声は悲鳴だけに変わった。あとは爆発音ばかり。  おそるおそる顔だけを外に出す。建物は崩れ、人々が逃げ惑う。鼓膜が破れるのではないかというほど重く大きな咆哮に身体が震え上がった。そちらに目を向ける。  大きな体躯で太い尾を操り、建物を薙ぎ払う。広げた翼の風圧で瓦礫が舞った。爪や牙は何もかもを粉々に砕く。 「ドラゴンだ……」  身を乗り出しすぎたようで荷馬車から落下した。痛みに悶えるが逃げなければ。  這いつくばって落ちているガラス片を拾う。逃げるためには足だけでも自由にしたい。  縄はなかなか切れず焦るばかり。急に目の前が陰り、目線を上に向ける。目の前に大男が立っていた。肩にかついでいる剣が振り下ろされ、咄嗟に俯いて瞼を覆った。足元でロープの切れる音がしてもう一度顔を上げる。大男は片膝をついて今度は手首のロープを切ってくれた。 「大丈夫か? 怪我はないか?」  頷くことしかできない。 「そこの建物の裏に走れ」  指された場所から誰かが手招きしていた。大男に腕を掴まれて立たされ、背中を押される。手招きしている人のところまで懸命に走った。建物の裏に隠れて振り返ると、私が乗っていた荷馬車がぺしゃんこになっていた。ゾッとする。 「大丈夫? 足、怪我してる」  心配そうに私の顔を覗き込むのは同じ年くらいの女の子。  裸足だから少しの距離でも足はガラスや瓦礫で傷だらけになった。  女の子が傷だらけの足に手をかざすと暖かな光に包まれる。傷はみるみるうちに消えていった。  女の子はホッと息を吐いて手を下ろす。  この子、治癒術師なんだ。 「私の靴でごめんね。また怪我するといけないから履いて」  女の子は自分が履いている靴を脱ぐと私に履かせた。女の子は長いスカートを破くと靴下の上から自分の足に巻いていく。
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