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「走るよ!」
手を引かれて駆け出す。
何で自分の靴を私に履かせるの? 何で自分の服を破くの? 何でこんなに汚い私の手を握れるの?
私なんて放って一人で逃げれば足も服も無事なのに。
ずっと一緒だった村人に裏切られたばかりの私は、会ったばかりで助けてくれるこの子に困惑するしかなかった。
走り疲れた頃、女の子の家に着いた。二人とも肩で息をし、女の子はよろよろと椅子に腰掛けた。
「疲れたでしょ? ここに座って」
隣の椅子を指される。私は首を振った。
「汚れるから」
貧しい村だったから毎日水浴びなんてできなかったし、売られてからは一度もない。体も頭もベタベタで汚れている。
「ごめんね、気付けなくて」
女の子は椅子に置かれたクッションのカバーを変える。どうぞ、と笑った。
「違う! 汚れるって言ったのは椅子のこと。私が座ったら真っ黒になっちゃう」
「じゃあシャワーを浴びたら座ってくれる?」
シャワー室に連れて行かれ、着替えまで貸してくれた。シャワーからは温かな湯が出てきた。湯を浴びるなんていつぶりだろう。
体を綺麗にして用意してくれた服に着替える。部屋に戻ると女の子も着替えていた。さっきまで履いていたスカートは破いて短くなっていたから。
「ごめんなさい。服をダメにしちゃって。靴も私に貸してくれて、怪我しなかった?」
「大丈夫だよ。私はシーナ。あなたは?」
「……チア」
「チアが無事でよかった」
シーナが目を優しく細めた。鼻の奥がツンと痛む。売られてからは値段で呼ばれていた。名前で呼ばれることがこんなに嬉しいことだと初めて知った。
「チア、こっちに座って」
シーナが隣を指す。今度こそシーナの隣に座った。
「私は外で怪我をしている人を治してくる。今、戦える人たちが協力してドラゴンの討伐に当たってる。絶対にみんなが倒してくれるから安心して」
「何言ってるの。シーナは治癒術師で戦えないでしょ? それなのに外に行くの?」
「うん、だって私はギルドの構成員。ここはギルドの街。自分たちの街は自分たちで守らなきゃ。戦えなくても人を助けたい」
シーナは目を鋭くする。私は知らない誰かを助けるためになんて外へ出たくない。でも、シーナを助けるためなら外へ出られる。
「私も行く」
「チアはここで隠れてて。危なくなったら逃げて」
「私は戦える! 少しなら魔法が使える」
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