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シーナは私の頭の先からつま先まで視線を動かして首を振った。
「チアに魔法は使えない」
「今は制御されてるの。自分じゃ切れないから、チョーカーをシーナが切って。自分以外の人なら簡単に切れるから」
奴隷商につけられた奴隷の証。私のは魔力がある人間の力を押さえつけるための紋章が刻まれている。力を使って逃げたり攻撃したりさせないために。
シーナは半信半疑ながらチョーカーをつまむ。
「絶対に動かないでね。危ないから」
ハサミでチョーカーを切った。途端に体の中心から全身へ魔力がみなぎる。
「……え? 少しなんてもんじゃない。すごいよチア!」
シーナが目をまん丸にして口を大きく開ける。
「私も戦うよ。ドラゴンを倒そう」
「分かった、一緒に行こう」
顔を見合わせて頷く。ドラゴンへ向かって駆ける。逃げ遅れた人はいないようで、誰ともすれ違うことなく戦闘中の人たちを見つけた。
「シーナ、何しに来た! お前は避難の誘導と負傷者の治療だと言ったはずだ!」
私を助けてくれた大男がこちらを一瞥して叫ぶ。
「すみませんオリヴァーさん、命令違反の罰は受けます。私は私のできることをしに来ました」
攻めあぐねいて受け身になっているギルド員の後ろで、シーナが両手を地面に付いた。シーナを淡い光が包む。
「時間短縮のため、範囲内の全ての人の物理攻撃力と魔法攻撃力を上昇させます」
シーナの手を中心に、地面の光の範囲が広がっていく。シーナは眉間に皺を刻み、小さく呻いた。目視できないほど範囲を広げる。
「いきます! 物理魔法攻撃力上昇!」
シーナが叫ぶと温かい光に包まれて力が湧いてくる。時間短縮というのは、人を選ばずに両方の攻撃力を上げたらしい。
「……無茶なことしやがって。シーナ、あとは俺たちがやるから下がっていろ」
「はい、でも、あと一回なら……」
ふらつきながらシーナが立ち上がる。
「チア、頼んだよ」
「うん、一緒に倒すよ」
手のひらを前に突き出し、そこに魔力を集める。
ドラゴンの目が私に向いて鋭くなる。魔力を感知して私が標的になったようだ。ギルド員が守ってくれようとしたけど、尻尾に薙ぎ払われた。私に木片が飛んでくる。
当たる前にシーナが飛びかかってきて、二人で吹き飛ばされる。
背中を打ちつけて痛い。瞼が重く、意識が途切れそうになる。
「あと一回……」
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