門出

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 シーナの弱々しい声が聞こえると、痛みが無くなり瞼を持ち上げる。私の上にいるシーナは傷だらけで意識を失っていた。木片から私を庇ったから。あと一回と言っていた。自分を治さずに私に治癒術を使ったんだ。  涙で視界が揺れる。唇を噛み締めて溢れる前に袖口で拭った。 「待っててシーナ。絶対に倒してくるから」  射程範囲まで走る。  シーナのバフのおかげか、魔法が効いているようだった。ドラゴンもターゲットを絞れずに、無差別に攻撃している。これなら魔力を練る時間があるはずだ。  私が両手を前に突き出すとオリヴァーが庇うように前に出た。 「ここは通さん。集中しろ。アラン、助けてやれ」  私は頷き、アランと呼ばれた剣士が私の隣に立つ。 「サポートする。準備ができたら放て」  アランの手にも魔力が籠る。剣も魔法もできるなんて器用な人だ。 「絶対倒す!」  私が叫ぶとオリヴァーが近接武器のギルド員達に向かって離れるように声を荒げた。  私の放つ大きな炎魔法をアランの風魔法が螺旋状に包み、炎の竜巻となってドラゴンを襲う。それに合わせて魔術師が一斉に攻撃を繰り出した。  それぞれが持てる最大の火力の魔法を叩き込み、ドラゴンの身体が消し飛んだ。ドラゴンのいた場所に黒い球が浮かんでいる。  アランがオリヴァーを魔法で浮かし、その球をオリヴァーの剣が砕いた。 「さっきのは何?」 「核だ。あれを壊さなければすぐに再生する。外側は魔法でなければ消せないが、核は物理攻撃でないと壊せない」  だからシーナはどちらの攻撃力も上げたのか。 「シーナ!」  ハッとして、シーナの元へ駆ける。  シーナはまだ気を失っていた。私を追っていたアランがシーナをそっと横抱きにする。 「治癒術師のところへ連れていく」  シーナを抱えて走るアランを懸命に追いかけた。  治癒術をかけられるとみるみるうちにシーナの傷が消えた。瞼が震え、ゆっくりと瞳があらわになる。辺りを見渡し、私を捉えると飛び起きた。 「大丈夫? 怪我はしてない?」  さっきまで倒れていたのはシーナなのに、私の身体をあちこち触って確認する。 「なんで最後の一回を私に使ったの? 自分を治療すればよかったのに」  気を失うほどの痛みと、見てわかるほど痛々しい傷だったんだ。そんな状況で自分より私を優先する意味が分からなかった。
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