願い事はあとひとつ

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 私には、願いを叶える力がある。  昔から目に映るものを欲しがる子供だった。だって周りには心をくすぐるものがありすぎるのだ。それがマーケティング戦略だと理解し始めた今になっても、変わらない。  そして、人は強欲な生き物だ。ひとつ手に入れれば、また他のものを欲しくなり、次第に目に映らないものにまで手を伸ばし始めるのだ。 「理子(のりこ)、急に黙り込んでどうした?」  ヒップホップ調のBGMが流れるカフェ店内で、目の前に座る寛人(ひろと)が指先でストローに触れたまま私の顔を覗き込んだ。 「なんか調子悪い?」 「別に、なんでもないよ」  飲み込んだカフェインが喉元を伝っていく。おしゃれなカフェでの放課後デート。これもいつかの私が欲しがったシチュエーションだった。テーブルの死角になる右手で、制服のプリーツスカートのポケットの中を探る。手のひらサイズの機械にある、ひとつのボタン。  これは、願いが叶うボタンだ。
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