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「嘘は負けを意味しますが、真実ですか?」
電子音声が冷静に問いかける。
「オレは配達を装って、女の部屋に忍び込んで襲った。同じ手口を何度も使った」
「ふ、ふざけるな」
俺は思わず、拳を強く握りしめていた。
当時、近辺では同様の手口が頻発していた。事実と合致している。
「その日も、綺麗な女を見つけたので、あとをつけた。入ったのは、セキュリティが緩いマンション。郵便受けには名前が書いてある。無防備がすぎるだろ。確か、3階だったな」
俺は意図して、マンションの階数まで話さなかった。やはり、榊原が犯人だ。頭に熱い血が駆け上る。
「襲おうとしたら、激しく抵抗しやがったんだ。だから――」
「――頭を鈍器で殴って殺したのか!」
我慢できず、俺は話を遮って立ち上がった。
「さあ、どうだかな? そんなに、怒るな。オレはこう見えて慎重でね。指紋一つ残さない。証拠はないんだよ」
事実だ。
部屋からは侵入者の指紋も、毛髪も検出されなかった。しかし、こっちには公表していない証拠がある。
「防犯カメラに犯人が映っていた。左の首筋に大きなアザがある犯人がな! それが証拠だ!」
予想外だったのか、榊原は目をカッと見開いた。
襲ってくる――そう思い身構えた。
しかし、奴は掛かってこなかった。それどころか、ケケケと笑い出した。
「そこまで、バレてたのか。お手上げだ。でもな……オレは殺してない」
――何だと!?
榊原の発言に、俺は言葉を失った。
「どういうことだ?」
「抵抗されたので、押し倒した。倒れるとき、女は壁に頭を強く打った。しかし、あれでは死なない。絶対にな。脳震とうを起こしたみたいだったが、血は出てなかったし、意識はあった」
俺は唾をゴクリと飲み込んだ。
「花瓶で殴ったんだろ。嘘をつくな!」
「目的は女を犯すことと金品。殺しじゃない。もうろうとした女を襲っても面白くない。だから、撤収したんだよ。そうしたら、翌日の新聞に『殺人事件』と書かれていて、マジでビビったぜ。話は以上だ。どうだ、悲惨だろ?」
榊原が話し終えると、電子音声が評価を述べた。
「殺していないようですね。だとすると、悲惨とは言えないですね。クリアならずです。チャンスはあと1回。とびきり悲惨な話を用意してください。でないと――」
全員死ぬ。
最後まで言わずにゲームマスターの声は途絶えた。
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