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* * *
ブルっと全身に震えが走った。
体が冷えている。
目を開け、周囲を確認した。俺と同じように、椅子で眠りに落ちてしまった男性が2人。
どのくらい眠ってしまったのか?
壁に掛けてある時計を確認する。
「嘘だろ、3時、過ぎてるじゃないか」
銭湯の閉店時間は深夜2時。目を閉じたとき、深夜0時だった気がする。3時間も寝てしまった。
室外の露天風呂にいたので、スタッフが気付かなかったのか?
「起きてください」
ひとまず、2人を起こすことにした。
1人目は四十代半ばの俺よりも、10歳以上、年上に見えた。白髪が混じった、やくざ風の男。
入れ墨は入浴禁止だが、男の体には見当たらない。しかし、雰囲気が一般人のそれとは異なっている。
「オレはまだ、眠いんだよ」
「閉店時間を過ぎているようなんです」
「なんだと?」
男は椅子から立ち上がり、時間を確認した。
「随分、寝ちまったな」
「私もです。あの人も起こしましょう」
俺は、だらしない格好で寝込んでいる男性に近付き、揺さぶった。
こちらは若い。20代後半か、30代前半くらい。引き締まった体から、スポーツをやっているように思えた。
「閉店時間を過ぎてるって? 嘘でしょ!」
俺たち3人は、露天風呂のドアから室内風呂のゾーンへ足を踏み入れた。閉店時間後なので誰もいない。
更衣室は、電灯が消されていた。若い男が、更衣室へ抜けるドアを開けようとする。
「鍵が掛かってます」
「閉じ込められた? ふざけんな!」
やくざ風の男の声が、風呂のタイルに反響する。
「スマホはロッカーの中なので、連絡手段がないですね。落ち着いて行動しましょう。まず自己紹介なんてどうです? 私は坂巻 琢磨と申します。工事現場で働いています」
自分から名乗ることにした。やくざ風の男が暴れて、怪我なんてまっぴらだ。良好な関係を築いておくべきだろう。
若い男性が「加藤です」と丁寧な口調で告げた。そして、やくざ風の男は「榊原だ」と短く言った。
その直後だった。
天井に設置されたスピーカが、ザザッと雑音を発した。
「閉店後の特別イベントにご参加、ありがとうございます。私のことは、ゲームマスターとお呼びください」
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