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ボイスチェンジャーで変更したような電子的な音声が、浴室内に不気味に反響した。
「イベント? ふざけるな!」
榊原が大声を張った。
「私の言う通りにしないと、あなた方は……死にます」
死ぬ……だと? 突然のショッキングワードに、俺たちは言葉を失う。
「椅子を中央に持って来て、お座りください」
榊原は顔を歪めて、あからさまに舌打ちした。
「ひとまず、従いましょう」
落ち着いた声で加藤が言った。
俺たちは、椅子を室内の中央に運んで、座った。
「で、どうすればいいんだよ!」
榊原が両手を強く握って、立ち上がった。
「まあ、榊原さん」
落ち着かせようと彼に手を伸ばした。だが、その手が空中で止まった。
――左肩に大きなアザ……まさか!
嘘だろ、こんなところで……。
「これは監禁。犯罪です。ガラスを破って出ましょう」
加藤も苛立ちを隠さず、更衣室へ続くドアへ歩みよった。
その姿を見て、俺は息を飲んだ――加藤の左肩にも大きなアザがあったからだ。
これは、偶然か!
加藤は洗面器を手にして、ドアを強く叩いた。
「強化プラスチック製なので無駄です。室内のアイテムで破ることはできません。ここから出るには、私にゲームで勝つしかありません。戦い、そう、戦闘です。銭湯で戦闘です。上手い言い回しだと思いませんか?」
電子音声がククッと笑い声を上げた。
「ルールは簡単。あなた方に、悲惨な体験を披露して頂きたいのです。私が『それは悲惨だな』と思えたら、あなた方の勝ちです」
「警察に突き出す気か?」
また、榊原が吠えた。
「私は、体験を収集したいだけ。ゲームに勝てば、お帰りいただけます。そう、賞金もお付けしましょう」
怒っていたはずの榊原が、ニッと不敵に微笑んだ。
「チャンスは3回。各自、1回ずつ使っていただいても結構ですし、同じ人が複数回でも結構です。話したくなったら『話します』と手を挙げてください。では、ごきげんよう」
ブツッと小さな雑音を残して、スピーカの声が消えた。
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