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俺は安堵した。だが、榊原は不満そうに俺を見ていた。
加藤は、チラッとこちらを見てから目を伏せた。
「お二人は、ここをよく利用されるのですか? 私は常連です。夜中が多いですが」
俺は緊張をほぐしておくことにした。
「オレは別の店舗に行ってんだけどさ、特別券が当たったとか言われたんだよ。入館料が無料になるだけでなく、酒も飲み放題。ただし、使える店舗がここで、日時も指定だったんだ。それで今日、来たんだよ。風呂の前に飲み過ぎちまった」
榊原が会話に乗ってきた。
「僕も常連です」
加藤も会話に加わった。常連と言うが、見覚えはない。
「土日の朝が多いんです。今日は珍しく、夜に来ました」
取り繕うように加藤が言った。
「そうそう、この銭湯、大手に買われたみたいだぜ」
「そうなんですか。大手って?」
榊原が言ったことは、俺の知らない事実だった。
「NNホールディングスとか言ってたな」
「アミューズメントに幅広く手を出してる企業ですね」
加藤がポンと手を叩いた。
――そういうことか!
NNホールディングスの社長は、妻の父親だ。何代も続く同族企業。ゲームの黒幕は父親か。娘の無念を晴らすために、犯人かもしれない人物を集めたのだ。
そして、飲み物に睡眠薬を入れて眠らせた。風呂だと無防備だし、監禁もしやすい。
でもなぜ、15年も経った今なのだ?
「次、誰が話すか決めませんか?」
引きつった笑みで、加藤が提案した。
「榊原さん、どうです?」
俺は視線を合わせつつ、思い切って振ってみた。
榊原はしばらく押し黙ってから言った。
「おい、ゲームマスター、聞いてるか?」
突然、スピーカの向こうの人物を呼び出した。
「何でしょうか?」
「話した内容は、警察には言わない。それで正しいんだな?」
「私の目的は体験の収集だけ」
「じゃあ、次はオレが話そう」
まさか、自供するわけない……。
しかし、その推測は裏切られた。
「オレは人を殺した。新聞にも載った。見事、逃げ切った。ここにいるのが証拠だ。ケケッ」
鋭い目つきで俺を睨みながら、右頬を釣りあげて不気味に笑った。
「こいつの妻を襲ったのは、このオレ様だ」
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