スーパー銭湯に閉じ込められた、3人の男

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「あなたが坂巻さんの奧さんを殺したって、本当ですか……」  加藤が声を震わせて聞いた。 「だから、殺してないって言ってるだろ。あれ以降、逮捕されたら殺人罪になると思って、身を隠して生きてきた。逃亡生活は悲惨だぜ。本当に殺してやればよかった」  榊原はまた、汚く舌打ちをした。 「坂巻さん、あなたが家に戻ったら、奧様は花瓶で殴られ、頭から血を流して倒れていた。正しいですか?」 「ああ」  加藤の質問を耳だけで聞き、視線は榊原から離さない。 「意識がありましたか?」 「いや」 「警察に電話をしているとき、息子さんが帰ってきた。そして、奧様を見てしまった。正しいですか?」 「ああ」  加藤はなぜ、そんなことを聞くんだ? 不審に思っていると、加藤は意外な提案をした。 「最後の1回、僕が話してもいいですか?」 「オレたちを超える話なんて、ねーだろ」  加藤は、榊原を無視して椅子から立ち上がった。 「ゲームマスター、話します!」 「あと1回、お分かりですよね」  スピーカから電子音声が発せられる。 「僕は母子家庭で育ちました。母が大好きでした……」  何の話をしているんだ?  その程度では、クリアなんて――そう思った俺の目を加藤はしっかりと見据えていた。 「母を殺した犯人が許せません」 「お前の母ちゃんは殺されたのか? それは傑作……」  嬉しそうに揶揄う榊原を、加藤が鋭い視線で制した。  そして、右手をゆっくりと持ち上げた。  その手には黒い何か――拳銃が握られていた。 「ひっ」  榊原は突然、向けられた銃に悲鳴をあげた。 「あなたは、黙っていてください」  そして、加藤は榊原に向けていた銃口を、ゆっくりと俺の方へ動かした。 「母さんを殺したのは誰? 本当のことを言ってよ……父さん」  父さん……だと!?  息子は今年、二十歳だ。 「特殊メイクだよ。背中のアザもね。この設定、僕が考えたんだよ。実行は、おじいちゃんの力も借りたけどね。ねえ、おじいちゃん、僕がケリをつけてもいいかな?」 「もちろんだ、拓也。久しぶりだね。琢磨君」  その音声は変換されていなかった。  聞き覚えのある声。間違いない、妻の父親だ。そして『拓也』は息子の名前。 「父さん……いや、父さんなんて呼びたくない。だから、母子家庭だなんて言ったんだけどね。僕、当時、父さんに言ってなかったことがあるんだ」  拓也の銃口は、俺の顔面を捕えていた。
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